内閣総理大臣表彰を受賞した施設が、職場改善のために次に取り組んだこととは?

内閣総理大臣表彰を受賞した施設が、職場改善のために次に取り組んだこととは?

「内閣総理大臣表彰」を受賞した特別養護老人ホームもくせい。その施設長である伊藤さんに受賞後に取り組んでいる職場改善や、今後取り組みたいことについてお伺いしました。職場改善に悩む方必見です!【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


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内閣総理大臣表彰受賞の理由は「夜勤業務の改善」

■執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-iryofukushi.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

私たちもくせい(特別養護老人ホームもくせい)が、令和7年度「介護職員の働きやすい職場づくり 内閣総理大臣表彰」を受賞した大きな要因は、夜勤の業務改善でした。※

夜勤業務の改善において、特に注力したポイントは下記の通りです。
※詳細:ささえるラボ 介護職員が働きやすい職場環境づくりで内閣総理大臣表彰!現場改革と成功の秘訣とは?

・職員へのアンケートや1on1で現場の声
(困っていること、時間を取られている業務など)を見える化

・「夜勤が大変」という声に着目し、どういったところが大変なのか、何の業務に
何分かかっているのかをタイムスタディ(10分単位のオペレーション分析)で棚卸し

・「眠りSCAN(スキャン)※」というテクノロジーを活用して、時間がかかっていた
巡視時間の削減を実現

※ベッドに設置したセンサーにより体動(寝返り、呼吸、心拍など)を測定し、睡眠状態を把握するシステムのこと。

■なぜ夜勤改革から始めたのか

では、なぜ夜勤の業務改革から着手したのか?夜勤は、基本的に毎日同じ人数、同じ流れで業務が行われるため、常勤・非常勤・介護助手が混在し、曜日ごとに体制が変わる日勤よりも、比較・検証がしやすい状況にあります。

また、そうした特徴を利用すれば、「まずは夜勤で成功体験を積み上げて、そこから日中業務へ展開する」という流れをつくりやすくなります。つまり、「取り組みやすいところから取り組むこと」で、生産性向上=業務改善を実現していったのです。

夜勤改善の成功を活かした「日中の業務改善」

夜勤の取り組みで成果を得た私たちは、次のステップとして日中の業務改善に取り掛かりました。そして、取り組みの中で、職員自身も驚くような事実が判明しました。昼食介助に、出勤している職員全員が対応する業務スケジュールになっていたのです。

この記事を読んでいる方の中には、「なぜそんな配置に?」と思う方もいるかもしれません。しかし、現場の職員は気づいていませんでした。

理由はとてもシンプルで、「今までずっとそうだったから」 です。

■タイムスタディで浮かび上がった人員配置の問題

タイムスタディによって業務の棚卸しを行い、その内容を客観的に見たとき、アンケートで挙がっていた「役割分担があいまい」「優先順位が人によって違う」という声の正体が見えてきました。昼食の時間帯に必要以上の人員を割いていたことで、その前後の業務にしわ寄せが生じていたのです。

そのため、なぜそうした体制になったのかを分析したのですが、見えてきたのは「介助に時間がかかる入居者がいたこと」や、「誤薬などの事故防止を意識したこと」などの細かな要因ばかり。結局、明確な理由は誰も説明できませんでした。

■話し合いと役割整理による業務フロー再構築

明らかだったのは、「今までそうだった」という事実だけです。そこで、あらためて職員全員で話し合い、時間配分を見直すことにしました。

具体的には、昼食介助に集中する職員の適正人数を再設定し、他の職員は休憩に入る。休憩後は、居室誘導や記録業務、レクリエーション準備など、昼食介助の次に時間を要する業務を担当する。このような流れが作れるよう調整を進めました。

さらに、直接介助(直接利用者と接する介助=入浴・食事・排泄等介助・コミュニケーションなど)と、間接業務(直接利用者さんと接しない業務=記録・巡視・配膳準備・片付け・掃除など)を切り分け、常勤・非常勤・介護助手の役割分担を明確化しました。

■見直し後の変化

結果はというと、1フロアあたり1日50分の業務削減を実現できました。これは月換算で約1,500分(25時間)に相当します。とはいえ、夜勤での経験がなければ勤務が複雑な日中のタイムスタディは挫折していたでしょう。

■生まれた50分が、ケアの質を変える

創出された50分は、単なる余裕時間ではありません。私たちは、その50分を「現場が本当はやりたかったけれど、やれずにいたこと」に使いました。アンケート調査で明らかになっていた「余暇活動・レクリエーションの充実」です。成果は下記になります。

■【成果1】余暇時間の充実化

・ユニット全体レクリエーション:月1回 → 月4回(週1回)
・グループ・個別レクリエーション:週1回 → 毎日実施
活動内容も、外出、おやつづくり、季節の飾り制作、アート活動など、個別対応も含めて多様化させました。

このような余暇時間の充実は、眠りの質にも好影響を与えます。たとえば、Aさんの眠りSCANを活用したデータ検証では、次のような変化が確認できました。

■【成果2】職員のモチベーション向上

・日中活動時間:月40時間増加(昼夜逆転の改善)
・睡眠効率:55% → 72%へ改善
・夜間覚醒頻度の低下
職員アンケートでも、「自分たちが良いと思えるケアができている」という回答が55.5%から88.9%に増加するなど、業務への自信とモチベーションが格段に向上しました。

自施設での成功体験を、法人内の施設に横展開

なお、この取り組みは、介護課だけで完結したわけではありません。次のステージとして、デイサービスセンターもくせいにも横展開しています。その頃のデイサービスでは、夕方の時間外勤務が常態化。勤務終了は17時30分ですが、ほとんどの職員が毎日30分〜1時間の残業をしていたのです。

生産性の向上に取り組む前は、私自身も「デイサービスは忙しいから仕方がない」と考えていたのですが、「なぜ17時30分に帰れないのか」を分析してみたところ、具体的な課題が見えてきました。
・送迎から戻れない
・掃除が終わらない
・翌日の利用者への電話連絡が終わらない

■出発時間の見直しが生産性向上の鍵に

原因をさらに掘り下げると、送迎の出発時間が遅いことも判明しました。そこで、私たちはサービスの提供時間を見直し、送迎出発を16時30分から16時15分に変更することにしました。利用者には次の点を丁寧に説明し、理解を得ています。
・生産性向上が国として求められていること
・渋滞時間帯を避けることで自宅への到着が早くなること
・職員の労働時間を守る必要があること
たった15分の見直しですが、結果的には、17時30分前に全職員が送迎から戻れる体制が実現しました。

テクノロジーと役割分担で、残業減少へ

生産性向上の施策はそれだけではありません。掃除についても自動掃除機を導入し、人が対応すべき場所と、ロボットに任せる場所を切り分けました。 その結果、次のような成果が出ています。
・業務削減時間:1日145分
・時間外勤務削減:1人あたり月約2.8時間
デイサービス職員からは、「小さな改善でも、積み重ねれば本当に変わると実感しました」との感想が聞かれるようになりました。

給食部門へも横展開を

さらに、給食部門でも横展開を実施しました。「早番は2人必要」という固定観念を疑い、業務を再整理。結果として、1人配置でもできるオペレーションに切り替えることができました。

これらは、特養での生産性向上の土台があったからこそ、部門間の対話がスムーズに進んだ事例です。

まとめ:「当たり前の習慣」を見直すことが職場改善に

もくせいでは、内閣総理大臣表彰の受賞を1つの通過点とし、夜勤帯で実施した生産性向上の取り組みを日中業務へ、デイサービスや給食課へと段階的に広げてきました。現在は、施設全体として不必要な時間外労働を減らし、職員1人ひとりがライフ・ワーク・バランスを実感できる環境づくりに取り組んでいます。

すべての時間外労働をゼロにするのは簡単ではありませんが、「これまで当たり前だった慣習」を1つずつ見直し、現場全体で少しずつ改善を進めていきたいですね。

■現場同士が学び合う仕組みづくり

また、受賞後約3か月の間には、延べ100名以上が参加する施設見学会や研修対応を行い、現場職員自身が試行錯誤や失敗を伝え合う機会(=横展開)も設けてきました。こうした等身大の発信を通じて、「自分たちにもできるかもしれない」と感じるきっかけをつくっていけたらと思います。

微力ではありますが、今後も介護サービスの質向上に向けて、現場発の挑戦を続けていきます。

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この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
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