家族を大切にしながら、安心して働き続けられる社会のために
■執筆者/専門家
おかげさま社労士事務所 代表 元地域包括支援センター センター長 社会保険労務士、社会福祉士・主任介護支援専門員・介護福祉経営士1級・ ファイナンシャルプランナー2級(AFP)・簿記3級
私はこれまで、地域包括支援センターの現場や社労士としての相談業務を通じて、子育てや家族の介護を抱えながら働く多くの方々の声に耳を傾けてきました。相談の中で最も多かったのは、「仕事を辞めるべきか迷っている」「自分ばかりが背負っている気がする」「制度があっても、どこに何を相談していいか分からない」という声でした。
今まさに求められているのは、「家族を大切にしながら、安心して働き続けられる社会」です。
シングルマザー・ダブルケアの現実
■ダブルケアについて
なかでも、シングルマザーであれば経済的な不安、時間的な制約、心のゆとりのなさが三重苦となってのしかかります。
■専門家が聞いた実際の声
これらの声はまさに、「制度があるだけでは救われない」現場の苦しさです。
■人生の選択肢を広げるために制度を活用しましょう
そんな中で、育児と介護の両方に関する制度が徐々に拡充されてきました。まだまだ課題は山積みですが、少なくとも「知っていれば防げた離職」は確実に減らせると私は信じています。
今回は、働く方にとって非常に重要な「育児・介護休業法」の改正内容を中心に、その活用方法や職場づくりのヒントについてお話しさせていただきます。
育児・介護休業法の改正の流れ
■改正の背景
少子高齢化が進む中で、「働きながら家族を支える」人が増えています。とりわけ、子育てと介護を同時に抱える「ダブルケア」のリスクは無視できません。改正の狙いは、より柔軟・きめ細かく、労働者ひとりひとりの事情を配慮できる制度づくりへと転換することにあります。
※参照:厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
■施行時期と主な内容
4月施行分では主に「子の看護休暇・残業制限・介護制度周知・短時間勤務代替措置」などがメイン。10月施行分では「育児期の柔軟働き方」「個別の意向聴取・配慮」などが加わります。
以下で段階ごとに改正点を整理していきます。
令和7年4月1日施行分の改正点
2.所定外労働(残業)の制限対象拡大【義務化】
3.短時間勤務制度(3歳未満)における代替措置に「テレワーク」の追加【義務化】
4.育児休業取得状況の公表義務範囲拡大【義務化】
5.介護関連制度の改善・強化
■1.子の看護休暇(子の看護等休暇)の見直し【義務化】
また、取得理由にも、従来は「病気・けが・予防接種・健康診断」が中心でしたが、入園式・卒業式・学校行事なども対象に加わります。さらに従来の労使協定で「勤続6か月未満は除外」という条項がありましたがこちらも廃止し、すべての労働者に適用されるようになります。
■2.所定外労働(残業)の制限対象拡大【義務化】
すなわち、子が小学校入学後でも、残業免除の請求が認められるようになります。
■3.短時間勤務制度(3歳未満)における代替措置に「テレワーク」の追加【義務化】
今回の改正では、従来の代替措置選択肢に新たに 「テレワーク等」 の選択肢が追加されます。 つまり、時短勤務が難しい場合も、在宅勤務や遠隔勤務といった形で対応できる可能性が広がります。
■4.育児休業取得状況の公表義務範囲拡大【義務化】
この義務は、取得率(対象となる男性労働者に対して育休取得した割合)を定期的(年1回など)に公表するというものです。
■5.介護関連制度の改善・強化
■個別周知・意向確認義務化
■介護休暇取得要件の緩和
■テレワーク等の導入を努力義務化
■早期の情報提供義務
令和7年10月1日施行分の改正点
2.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮【義務化】
■1.育児期の柔軟な働き方を実現するための措置【義務化】
2.テレワーク等(原則、月10日以上/時間単位取得)
3.保育施設設置・便宜供与(ベビーシッター支援等)
4.養育両立支援休暇の付与(年10日以上/時間単位取得可)
5.短時間勤務制度(1日の所定労働時間を原則6時間とする制度を含む)
そのうえで、労働者は事業主が講じた措置の中から一つを選択して利用できます。 また、3歳未満の子を養育する労働者に対しても、講じられた措置を個別に周知・意向確認することが義務化されます。
■2.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮【義務化】
この配慮は、制度を黙って周知するだけでなく、働き方・配置・負荷調整といった具体的な条件について検討することを意味します。意向聴取の方法は面談・書面・電子メール等が認められており、オンライン面談も可とされます。
働くあなたへのメッセージ~制度は働く人を守る盾~
制度はあなたを守る盾でもあり、未来を切り拓く道でもあります。でも、制度は申請しない限り動いてはくれません。誰に相談していいか分からないときは、地域の「社会保険労務士」「地域包括支援センター」「労働局」など、専門機関に遠慮なく相談してください。
最後に:制度を活用してあなたらしい人生の第一歩を
少し熱がこもってしまいましたが、制度はただのルールではなく、人生を支える「道具」です。使いこなすには「情報」と「対話」が欠かせません。介護や育児、仕事を背負って頑張るあなたの「これから」を応援しています。
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