マイナビ医療福祉キャリア
高齢化社会でも特養経営が厳しい理由とは?データから読み解く打開策

高齢化社会でも特養経営が厳しい理由とは?データから読み解く打開策

高齢化が進むなかで、なぜ特別養護老人ホーム(特養)の経営は厳しさを増しているのか。介護報酬制度や人材不足、稼働率の課題をデータで解説し、これからの特養経営に求められる視点を考えます。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職・ヘルパー」の求人を見る

本日のお悩み :特養の経営状況が厳しい理由を知りたい

先日、特養の多くの施設で経営状況が難しいというニュースを見ました。
高齢化が進んでいるにもかかわらず、なぜ経営は難しくなるのでしょうか。

高齢化が進んでいるのに、なぜ特養の経営は厳しいのか?

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-iryofukushi.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

回答

「高齢化が進んでいるのだから、特別養護老人ホーム(特養)の経営は安定しているのではないか?」と思われることがあります。しかし、必ずしもそうとは限らず、経営面では厳しさが増しているケースもあります

■高齢者は増えているのに、経営が安定しない理由

たしかに、介護を必要とする高齢者は増加しており、今後も増えていくと考えられます。
しかし、需要が増えることと、施設経営が良くなることは同じではありません。特養の主な収入源は、公的に価格が定められた介護報酬であり、民間サービスのように、需要が増えたからといって自由に価格を上げられるわけではありません。つまり、人件費や光熱費、給食費、建築コストなどが上がっても、それを利用料に転化しにくい構造にあるのです。

■制度とコスト構造が追いついていない現実

介護費用の総額自体も、制度創設時から約3.7倍の13.7兆円まで膨らんでいます(2025年10月の厚生労働省資料)。その結果、制度全体の持続可能性について、議論や検討が続いています

その厳しさは、数字にもはっきり表れています。福祉医療機構(WAM)の2025年度調査では、従来型は45.2%、ユニット型でも31.5%が赤字となっており、特養の経営難は一部の施設だけでなく、業界全体の課題です。

ここまでを踏まえるなら、高齢化が進んでいるのに経営が苦しいのは、「利用者がいないから」ではなく、支えるしくみとコスト構造が追いついていないからだと言えるでしょう。

介護報酬の制約に加えて、人材不足も大きな壁になっている

とりわけ大きな要因が、人材不足です。厚生労働省は、2040年度までに約57万人の介護職員を確保する必要があるとしています。一方で、2023年度に介護職員数が減少に転じ、2024年度も大きな増加は見られませんでした。介護関係職種の有効求人倍率も、令和7年10月時点で4.07倍と高水準で、必要な人材を十分に確保できていないことがうかがえます。

人材不足から生じる現場への影響

WAMの調査でも、直接処遇職員が不足していると答えた施設は64.0%、不足施設の平均不足人数は5.5人でした。さらに、直接処遇職員が不足している施設の13.7%は、人員不足を理由に利用者の受け入れ制限を行っています。

人手不足が経営をさらに苦しくする構造

人材確保が難しい要因としては、他産業より低い賃金水準(77.9%)、地域における労働人口の減少(62.7%)、近隣施設との競合(54.7%)が上位に挙がっています。つまり、ベッドはあっても人がいないために埋められず、紹介料や採用コストが増え、既存職員の負担も重くなるという悪循環が起きているのです。

外部環境だけに原因を求めないという視点

ただし、外部環境の影響が大きいことを踏まえつつ、施設側で取り組める改善策もあわせて検討することが重要です

稼働率のわずかな差が経営に与える大きな影響

例えば、70床の特養で稼働率が90%から95%に上がると、年間では延べ1,277.5人日分の差になります。2023年度におけるWAMの分析によると、従来型特養の60~79床帯の利用者単価は1人1日12,695円で、この単価を当てはめると、稼働率5%の差は年間約1,622万円の収益差になります。もし、ユニット型60~79床帯の14,759円で見れば、差額は年間約1,885万円です。5%の違いは、決して小さくありません。

もちろん、稼働率を高めることは簡単ではありません。入院、看取り、入退所のタイムラグ、職員配置基準、家族調整など、現場には避けられない事情もたくさんあります。それでも、「90%でやむを得ない」と考えるのか、「95%、できればそれ以上を目指す」と考えるのかで、経営の景色は大きく変わります。

これからは、ただ待っていれば入居者が集まる時代ではありません。利用者や家族に選ばれる施設になる視点が、これまで以上に重要になっています。

厳しい状況のなかでも、利用者や職員に「選ばれる施設」になることが大事

20年前と違い、いまは施設を探すときに、スマートフォンで検索する人が多い時代です。だからこそ、「施設の公式サイトがスマートフォン対応になっているか」「更新が止まっていないか」「施設の雰囲気やケアの特徴が伝わっているか」といった発信の差が、選ばれるかどうかに直結します。そして、利用者だけでなく求職者も、インターネット上の情報を通じて、「ここで働きたい」と思える施設を選んでいます。

現状のまま魅力を発信できなければ、利用者からも求職者からも選ばれにくくなり、人手不足が進みます。その結果、稼働率が下がり、経営はさらに厳しくなる。現代は、そうした流れが決して珍しいものではないのです。

小規模施設ほど求められる積み重ねの経営

実際、WAMの定員規模別分析でも、小規模施設ほど経営が厳しい傾向が示されています。従来型特養では、30~59床の赤字施設割合が49.0%、60~79床が44.4%となっている一方、100床以上では28.7%という水準でした。規模が大きいほうがスケールメリットを出しやすいことは事実ですが、逆に言えば、規模面で不利な施設ほど稼働率、発信力、加算算定、採用力などの積み重ねが重要になるということでもあります。

まとめ:これからの特養経営に求められる姿勢とは

高齢化が進んでいるのに特養経営が厳しい理由は、単純ではありません。介護報酬の制約、物価高、人材不足、利用者の重度化といった外部要因は非常に大きな壁です。しかし、そうしたなかでも、「稼働率にどこまでこだわるか」「選ばれる施設になるためにどこまで情報発信と改善を続けるか」で、結果は変わってきます。

これからの特養経営に必要なのは、「厳しい時代だから仕方がない」と受け身になることではなく、課題を直視しながら、地域のなかで利用者にも職員にも選ばれる施設を作っていくことではないでしょうか。

あわせて読みたい記事

介護施設の食費が+100円へ|背景・メリット・デメリットを社労士が徹底解説 | ささえるラボ

https://mynavi-iryofukushi.jp/media/articles/1403

2026年8月から介護施設の食費基準額が1日+100円に。値上げの理由、制度の仕組み、施設・利用者双方のメリット・デメリットを介護業界特化型社労士が詳しく解説します。【執筆者/専門家:山本 武尊】

\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職・ヘルパー」の求人を見る

この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

関連するキーワード


介護のお悩み 介護あるある

関連する投稿


第189話 「ゴールデンウィーク(GW)」/ほっこり介護マンガ

第189話 「ゴールデンウィーク(GW)」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


地域包括ケアシステムにおける医療・介護連携とは?

地域包括ケアシステムにおける医療・介護連携とは?

地域包括ケアシステムにおいて重要視される医療と介護の連携。その必要性や背景、事業所・利用者双方のメリットを専門家がわかりやすく解説します。【執筆者/専門家:脇 健仁】


春のお出かけを安全に楽しむために〜介護職が知っておきたい外出時のリスク管理

春のお出かけを安全に楽しむために〜介護職が知っておきたい外出時のリスク管理

春は外出機会が増える一方、転倒や体調変化などのリスクも高まります。本記事では、介護職が知っておきたい春先特有のリスク、事前準備、緊急時対応、職員連携まで、現場経験をもとに実践的に解説します。【執筆者/専門家:後藤晴紀】


第188話 「介護職の癖」/ほっこり介護マンガ

第188話 「介護職の癖」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


介護現場でなぜ属人化は起こるのか?生産性向上の鍵は「任せる文化」にあり

介護現場でなぜ属人化は起こるのか?生産性向上の鍵は「任せる文化」にあり

介護施設で業務が属人化してしまう本当の理由とは?「あの人しか分からない」をなくし、利用者に向き合う時間を取り戻すための考え方と実践のヒントを、専門家視点で解説します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


マイナビ医療福祉キャリア 閲覧ランキング
【北海道・東北】
【関東・甲信越】
【北陸・東海】
【関西・中四国】
【九州・沖縄】

最新の投稿


第189話 「ゴールデンウィーク(GW)」/ほっこり介護マンガ

第189話 「ゴールデンウィーク(GW)」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


地域包括ケアシステムにおける医療・介護連携とは?

地域包括ケアシステムにおける医療・介護連携とは?

地域包括ケアシステムにおいて重要視される医療と介護の連携。その必要性や背景、事業所・利用者双方のメリットを専門家がわかりやすく解説します。【執筆者/専門家:脇 健仁】


春のお出かけを安全に楽しむために〜介護職が知っておきたい外出時のリスク管理

春のお出かけを安全に楽しむために〜介護職が知っておきたい外出時のリスク管理

春は外出機会が増える一方、転倒や体調変化などのリスクも高まります。本記事では、介護職が知っておきたい春先特有のリスク、事前準備、緊急時対応、職員連携まで、現場経験をもとに実践的に解説します。【執筆者/専門家:後藤晴紀】


第188話 「介護職の癖」/ほっこり介護マンガ

第188話 「介護職の癖」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


介護現場でなぜ属人化は起こるのか?生産性向上の鍵は「任せる文化」にあり

介護現場でなぜ属人化は起こるのか?生産性向上の鍵は「任せる文化」にあり

介護施設で業務が属人化してしまう本当の理由とは?「あの人しか分からない」をなくし、利用者に向き合う時間を取り戻すための考え方と実践のヒントを、専門家視点で解説します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


マイナビ医療福祉キャリア
「マイナビ医療福祉キャリア」は、医療・福祉・介護職に特化した中途、パート向け求人サイトです。
医師、看護師、薬剤師、歯科医師、介護職・ヘルパー、保育士、リハビリ職、技術職、事務職など、専門性の高い職種に特化した求人情報を多数掲載しています。
雇用形態や詳細条件での求人検索もできるのであなたにぴったりな職場が見つかります!
【職種から求人・転職情報を探す】