介護現場でなぜ属人化は起こるのか?生産性向上の鍵は「任せる文化」にあり

介護現場でなぜ属人化は起こるのか?生産性向上の鍵は「任せる文化」にあり

介護施設で業務が属人化してしまう本当の理由とは?「あの人しか分からない」をなくし、利用者に向き合う時間を取り戻すための考え方と実践のヒントを、専門家視点で解説します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職・ヘルパー」の求人を見る

本日のお悩み:属人化した業務を整理したい

施設長をしています。一部の業務が、特定の職員しか把握していない状況になっており、マニュアルもありません。どの業務が属人化しているのかを整理して、マニュアルを作成するなどの対応をしたいのですが、忙しくてそうした作業もできていない状態です。属人化した業務を整理し、他の職員に分散するための工夫があれば教えてください。

「この業務はあの人しか分からない」が生まれる瞬間

■執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-iryofukushi.jp/media/users/14

茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

施設長をしていると、「この業務は○○さんしかわからない」という場面に出会うことは少なくありません。申し送りの方法、家族対応、加算関連の書類、デジタル機器の設定——。気づけば、一部の職員だけが担当する業務が存在し、いわゆる“属人化”の状態になっているのです。

■属人化が組織にもたらすリスク

属人化は、多くの場合、忙しさの中でいつの間にか生まれるものです。しかし、その状態が続けば、特定職員の休職や異動、退職の際に業務が止まってしまい、組織全体のリスクとなります。生産性向上を考える上でも、属人化の解消は避けては通れないテーマといえるでしょう。

「任せられない」心理が属人化を生む

では、なぜ介護現場では属人化が起こるのでしょうか。

一つ目の理由は、職員側の任せられないマインドです。

■「自分がやったほうが早い」という思い込み

介護の現場では、よく「自分がやったほうが早い」「自分のようにはできないから任せられない」といった言葉を耳にします。これは、責任感や慎重さの表れでもあるため、サポート内容が利用者の生活の質に直結する介護の仕事では、当然の感覚かもしれません。

けれど、この考え方が続くと、“任せられない症候群”のような状態になってしまうことも事実です。本来、誰かに任せるというのは、相手の持っている力を分析し、その力を適切に生かしながら業務を遂行することです。また、今は少し力が足りなくても、任せることで成長してほしいという意思や意図が働くこともあります。

■任せないことが生む悪循環

ところが、任せることに慣れていないと、「自分と同じレベルでできない」という基準で他者を見てしまいがちです。そして、以下のような悪循環に陥ります。
・任せるより自分がやったほうが早いからと任せなくなる
・自分と同じ成果を求めてしまう
・他者のやり方を受け入れられなくなる

■人材育成とは「可能性」を見抜くこと

属人化している本人が、「任せると時間がかかる」という感覚を強く持っているケースは、意外に多く見られます。確かに、短期的にはそうかもしれません。しかし、そこに教育の視点がなければ、「この人はできない」と決めつけてしまい、人材育成になりません。

本来は、その人の力量や伸びしろを見抜き、「何をどう任せれば成長につながるか」を考えるのが人材育成です。考えることをやめ、「自分がやったほうが早い」と自分を上に置いてしまったら、属人化を深めてしまうだけです。

■無自覚な「自分のほうができる」という意識

加えて、人が成長していくことを素直に喜べなかったり、無自覚に「自分のほうが能力が高い」という意識が働いたりする場合もあります。これは決して特別なことではなく、誰にでも起こり得る心理です。ただし、この感覚が強くなると、任せること自体が難しくなり、結果としてその人に業務が集中してしまいます。

組織としての役割設計と評価の問題

もう一つの理由は、組織側の評価の問題です。

■「一人で頑張る人」を評価していないか

多くの現場では、能力が高く、一人で仕事を抱えて頑張る職員が評価されがちです。そして、「あの人がやってくれるなら大丈夫」という空気ができてしまうと、結果的に組織が属人化を容認してしまうことになります。

■属人化を防ぐために見るべき3つの視点

本来、組織が行うべきことは、個々の職員の力を分析し、役割分担を設計することです。そのため、以下の視点で職員を見ることが、属人化を防ぐ第一歩となります。
・誰が何を得意としているか
・どこを伸ばせば次の役割を担えるか
・どの業務を分担できるか

一人が抱えている状態を「頑張っているから良い」としてしまう組織風土こそ、属人化を招く要因だと理解しましょう。

属人化の本質的な解決とは

属人化の解消方法として真っ先に思いつくのは、マニュアル作りや業務整理ではないでしょうか。確かにそれも重要なのですが、私はそれ以上に大切なことがあると考えています。特定の業務を「その人にしかできない仕事」にするのではなく、「その人がみんなに機会を与えていく仕組み」と、「組織がそれをバックアップする体制」をつくることです。

■必要なのは機会を与える「仕組み」と「文化」

仕事が多い人の苦しみは目に見えやすい一方で、仕事を任せてもらえない人のつらさは表に出にくいものです。そうした中には、「自分は必要とされていないのではないか」「成長の機会がない」と感じながら働いている人もいます。

だからこそ、みんなに機会を与え、組織としてバックアップしていくことが大切なのです。その際、任せる側には、自分と同じ完成度を求めすぎない勇気が必要です。また、 組織としても仕事を抱える人ではなく、仕事を広げ、機会を生み出せる人を評価する文化を育てる必要があるでしょう。

まとめ:介護における生産性向上の考え方

生産性向上という言葉は、業務の効率化や業務の削減と同じ意味に受け取られがちですが、本質は違います。介護における生産性向上は、現場の力を引き出し、利用者に向き合う時間を取り戻すことです。

属人化が解消されると、誰かが休んでも現場が止まらない、新人が挑戦しやすくなる、チームとして支え合えるなどのメリットも生まれます。結果として、働きやすさやケアの質も向上するでしょう。

■属人化を解消するために今日からできる第一歩

属人化を解消する第一歩は、マニュアル作りではありません。まずは、互いに機会を渡し合える関係性をつくること。そして、任せることを前向きに捉える文化を育てることです。

そうしたマインドセットを身につけて、ぜひ「任せる文化」を実現していってください。

■あわせて読みたい記事

\あなたにぴったりの求人が見つかる/
「介護職・ヘルパー」の求人を見る

この記事のライター

茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)

関連するキーワード


働き方ガイド お悩み相談室

関連する投稿


高齢者がエアコンを嫌がる理由と対策とは?熱中症を防ぐために介護職員が実践したい声かけのポイント

高齢者がエアコンを嫌がる理由と対策とは?熱中症を防ぐために介護職員が実践したい声かけのポイント

介護現場で働く職員のかたからのお悩みです。訪問介護、グループホーム、居宅介護⽀援事業所などに従事した経験を持ち、介護関連のセミナーや講演に数多く登壇している羽吹さゆりさんにご回答いただきました。本記事では、高齢者のかたがエアコンをいやがる理由と対策について、詳しく解説していきます。【執筆者/専門家:羽吹 さゆり】


日本は超高齢社会に│高齢社会との違いや問題点、医療・介護現場の現状や対策を解説

日本は超高齢社会に│高齢社会との違いや問題点、医療・介護現場の現状や対策を解説

日本は世界に先駆けて、65歳以上の割合が21%を超える「超高齢社会」へと突入しました。それに伴い、医療・介護のニーズは、量と質の両面で急拡大しており、現場では業務負担の増大や人材不足が深刻な課題となっています。本記事では、「超高齢社会」の定義を整理した上で、医療・介護現場で顕在化している課題と、現場で行われている対応策について解説します。【執筆者:ささえるラボ編集部】


介護施設の外国人雇用完全ガイド|採用・受け入れの流れと定着のポイント

介護施設の外国人雇用完全ガイド|採用・受け入れの流れと定着のポイント

介護施設での外国人雇用を検討している方向けに、採用・受け入れの流れや特定技能・在留資格「介護」・EPA・育成就労制度の違い、外国人介護人材に選ばれる職場づくりのポイントを専門家が解説します。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


雨の日の訪問介護で気を付けることとは?ヘルパーが押さえたい4つのポイントを解説

雨の日の訪問介護で気を付けることとは?ヘルパーが押さえたい4つのポイントを解説

雨の日の訪問介護では、移動中の事故や利用者の転倒、体調変化への配慮が欠かせません。本記事では、訪問介護で働くヘルパーが雨の日に意識したい持ち物、安全対策、利用者対応のポイントを詳しく解説します。【執筆者/専門家:牧野 裕美】


AIが介護職の仕事に与える影響とは?明確になる人の役割も徹底解説

AIが介護職の仕事に与える影響とは?明確になる人の役割も徹底解説

AIの進化によって「仕事が奪われる」という不安が語られる今、介護の現場ではまったく異なる変化が起きています。記録や事務といった業務はAIが担う一方で、人にしかできない役割である「判断する力」や「察する力」の価値が、これまで以上に浮き彫りになっているのです。AI時代において、介護という仕事はどのように変わり、何が専門性として残るのか、その本質に迫ります。【執筆者/専門家:伊藤 浩一】


マイナビ医療福祉キャリア 閲覧ランキング
【北海道・東北】
【関東・甲信越】
【北陸・東海】
【関西・中四国】
【九州・沖縄】

最新の投稿


生活介護の「送迎加算」とは?算定要件と現場職員が知っておきたい注意点

生活介護の「送迎加算」とは?算定要件と現場職員が知っておきたい注意点

生活介護の送迎加算(Ⅰ)(Ⅱ)について、算定要件や単位数、重度利用者が多い事業所への加算、片道算定の考え方を解説。自宅以外への送迎や外部委託、同一敷地内での取り扱いに加え、請求ミスを防ぐ記録管理、安全な送迎体制、職員の労働時間管理まで、社労士の視点でわかりやすく紹介します。【執筆者/専門家:山本 武尊】


第211話 「見守り」/ほっこり介護マンガ

第211話 「見守り」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


第210話 「読書の秋」/ほっこり介護マンガ

第210話 「読書の秋」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


チームケアとは?介護職員が知っておくべき基本と心得・実践ポイントを解説

チームケアとは?介護職員が知っておくべき基本と心得・実践ポイントを解説

チームケアとは、利用者さんの目標達成に向けて多職種が連携する介護の重要な考え方です。本記事ではチームケアの意味や目的、メリット・デメリット、情報共有の方法、介護職員とリーダーの役割、現場で役立つ実践ポイントや事例をわかりやすく解説します。【執筆者/専門家:奏かえで】


第209話 「拒否」/ほっこり介護マンガ

第209話 「拒否」/ほっこり介護マンガ

「介護職員・並木マイの ほっこり成長日記 ~転職して、介護の仕事はじめました~」 保険会社から介護の仕事に転職した、並木マイさん(31歳)の成長と 介護現場のあるあるを描く、ほっこり癒し系マンガ! 休憩時間、このマンガを読んだあなたが クスっと笑えてちょっと癒され、ほっこりした気持ちになれますように。


マイナビ医療福祉キャリア
「マイナビ医療福祉キャリア」は、医療・福祉・介護職に特化した中途、パート向け求人サイトです。
医師、看護師、薬剤師、歯科医師、介護職・ヘルパー、保育士、リハビリ職、技術職、事務職など、専門性の高い職種に特化した求人情報を多数掲載しています。
雇用形態や詳細条件での求人検索もできるのであなたにぴったりな職場が見つかります!
【職種から求人・転職情報を探す】