本日のお悩み:新人への指導方法・関わり方
介護職の新人が仕事を覚えられないのは本人の問題だけではない
■執筆者/専門家
茨城県介護福祉士会副会長 特別養護老人ホームもくせい施設長 いばらき中央福祉専門学校学校長代行 NPO法人 ちいきの学校 理事 介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント 介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)
■新人は「組織を映す鏡」である
新人一人ひとりには得意・不得意があり、成長のスピードも違います。そのため、指導中に「覚えるのが遅いな」と感じる場面もあるかもしれません。しかし、私は新人が育たない原因を、本人の能力だけに求めるべきではないと考えています。新人は、「組織を映す鏡」でもあるからです。
■新人指導で最も重要な「認識のズレ」の解消
そのズレをなくすためには、二つの視点が重要だと考えます。一つは、指導する側の「教え方」を見直すことです。もう一つは、「適材適所」という視点を持つことです。
「このくらいはできるはず」のわな
■指導者と新人で完成形のイメージが違う
指導者は「とろみのつけ方くらい知っていて当然」と思っていたのでしょう。しかし、新人だった私は、「具体的な方法を教えてもらっていないのに怒られた」と納得しづらさを感じました。
ここに、大きなズレがあります。
■理不尽さを感じると新人は質問できなくなる
介護現場では、「初任者研修で習ってきたはず」「実習で経験してきたはず」「前の施設でやっていたはず」という言葉を耳にすることがあります。しかし、それらはすべて思い込みになり得ます。施設が変われば食事介助の方法も、排泄介助の方法も、記録の書き方も、申し送りのルールも違います。
それを踏まえると、できないのは新人の能力のせいではありません。指導者の頭の中にある「完成形」が共有されていないだけなのです。
「目玉焼き」の例でわかる教え方の落とし穴
■「目玉焼きを作ってください」で十人十色になる
「目玉焼きを作る」と聞くと、誰でもできそうに思います。ただし、作り方については人それぞれ。
・フライパンはどのくらいまで温めるのか
・油はひくのか
・火加減は強火か弱火か
・黄身は半熟なのか、固焼きなのか
・水を入れて蒸すのか、入れないのか
つまり、「目玉焼きを作ってください」という言葉だけを伝えた場合、人によって作り方や出来上がりのイメージがまったく違うのです。
■作業を細かく分解して伝える重要性
・声掛け
・一口量の見極め
・飲み込みの確認
・食後の口腔ケア
・記録
新人教育の質を高めるマニュアル活用術
■なぜマニュアルが新人育成に欠かせないのか
私は新人指導の際、まず「業務マニュアルや手順書は最新のものになっているのか?」を担当者に確認します。マニュアルというと「新人教育のためのもの」と思われがちですが、本来の役割はそれだけではありません。
■教育のばらつきを防ぐ共通ルールづくり
マニュアルは、「組織全体の品質を守るためのしくみ」でもあるのです。
一方で、マニュアルがないまま曖昧な状態で教育を終えてしまうと、新人は自己流で仕事を覚えます。すると業務にムラが生まれ、他の職員がフォローすることになりかねません。そして、そうした状況が続くと、「また私がフォローするの?」という不満や疲弊につながり、新人教育の問題が組織全体の生産性低下へと発展してしまいます。
指導しても成長が遅い新人への向き合い方
■雑草の生存戦略に学ぶ「適材適所」
以前、「雑草はなぜ強いのか」という記事を読みました。雑草は、大木のように高く伸びることを目指すのではなく、自分が育ちやすい環境、自分が有利になれる環境を選び、その場所に柔軟に適応していこうとすると言われています。だからこそ、他の植物よりも強く、たくましく生きていけるのです。
■できないことより強みに目を向ける
新人教育では、「できないこと」を克服することも大切ですが、それ以上に「何が得意なのか」を見つけることも重要です。介護職として最低限の知識や技術は身につける必要がありますが、その先は全員を同じように育てる必要はありません。一人ひとりの強みを生かし、役割を考えることが、組織全体の力になるはずです。
新人教育で見落とされがちな「指導者の負担」
■指導者を孤立させない
熱心に指導していると、
「何度教えても覚えてくれない」
「私の教え方が悪いのだろうか」
私が心配するのは、指導者が熱心であるがゆえに、メンタル不調に陥ることです。新人教育が、指導担当者一人だけの仕事になっていませんか? 周囲の職員が、「我関せず」という雰囲気になっていませんか?
■新人教育は指導担当者一人の仕事ではない
指導者の上司が定期的に1on1を行い、「困っていることはありませんか」と声をかけて話を聞く。その上で教育の進捗をチーム全体で共有する。指導方法に迷いがあれば、いっしょに考える。こうしたしくみがあるだけでも、指導者の心理的負担は大きく軽減されます。新人を支えるためには、まず指導者を支えること。私は、それも組織の大切な役割だと考えています。
新人教育は組織全体の成長につながる
■新人が定着しやすい職場づくりのために、指導体制を見直す
新人が辞めたときは、「本人に問題があった」と考えるのではなく、次の問いを組織に向けてみてください。教え方は適切だったか。マニュアルは整備されていたか。質問しやすい環境だったか。その人の強みを生かせる役割を考えられていたか。
まとめ
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茨城県介護福祉士会副会長
特別養護老人ホームもくせい施設長
いばらき中央福祉専門学校学校長代行
NPO法人 ちいきの学校 理事
介護労働安定センター茨城支部 介護人材育成コンサルタント
介護福祉士 社会福祉士 介護支援専門員 MBA(経営学修士)